【先帝陛下の落涙】
「自分の意見は去る九日の会議に示したところとなんら変わらない。先方の回答もあれで満足してよいと思う」
と仰せられ、合わされて、
その理由とするところは、
前回の御前会議で述べさせられたご趣旨とご同様、
世界平和を念慮され、
皇国悠久の存続のための終戦の必要を述べさせられ、
純白のお手袋にてお眼鏡をお拭き遊ばされていたが、
陛下は一段と声を励まされ
「このような状態において戦争を終結することについては、
さぞ、皇軍将兵、戦没者、その遺家族、
戦災者らの心中はいかがであろうと思えば
胸奥の張り裂くる心地がする。
しかも時運の赴くところいかんともなし難い。
よって、われらは堪え難きを堪え忍び難きを忍び……」
と仰せられたかと思うと、
玉音は暫し途切れたのである。
仰ぎ見れば、おお、おいたわしや、
陛下はお泣き遊ばされているではないか……。(中略)
この陛下の
「堪え難きを堪え…」
「堪え難きを堪え…」
の玉音を拝するや、
たまり兼ねた一同は御前もはばからず
ドット泣き伏したのである。
なかにはみもだえ号泣するものもあったのである……。
(『鈴木貫太郎自伝』日本図書センター)