「あんまり緑が美しいから」・・・ある特攻隊員の遺書(1)
あんまり緑が美しいから
今日これから死にに行くことすら
忘れてしまいそうだ
真青な空
ぽかんと浮かぶ白い雲
六月の知覧は
もうセミの声がして
ほぼ夏を思わせる
作戦命令を待っている間に
小鳥の声が楽しそう
「俺もこんどは小鳥になるよ」
日のあたる草の上にねころんで
杉本がこんなことを言っている
笑わせるな
本日 十三・三五分
いよいよ知覧を離陸する
なつかしの
祖国よ
さらば
使いなれた万年筆を
「かたみ」に送ります
陸軍大尉 枝 幹二 命
(二十三歳 富山県出身